17章 転調(3)
前章までに述べてきた転調はドミナントモーションがきっか けとなる理論的なものだったり、平行移動による順次的な脈絡 で説明できる転調でした。 これに対して突然転調という、理論の範疇を無視して流れを 強引に変えてしまうブッ飛んだ転調があります。しかし、見よ うによればその「唐突さ」も転調の魅力であり、トリッキー、 かつ、聴いてうなってしまうような見事な転調の追求も面白い ものという気がします。 とはいいつつ、ここで使う「突然転調」は少なからず「俺用 語」であり、正しくは、楽典によれば突然転調はトニックが直 結したもの、という説明があるので先にこちらを解説しておき ましょう。
トニックから転調
おそらく、あらゆる転調の中でも最も簡単な方法です。とに かくコード進行の中で、トニックで終わる部分から転調します。 これはトニックがいかなる状況でもどんなコードにも進行可能 である、という機能上の性質を利用したものです。ここではキ ーの変わり目を明確にするため、メロディライン、またはハー モニーに強力な終止感が必要となります。よって代理トニック ではダメで、正調トニックでなければ効果がありません。和声 的にも、新調前の段落感、という点で、あらかじめドミナント (ツー・ファイブ含む)で新調を導く準備をするドミナント転 調との差異になります。 ● トニックから転調 =非対応メニューです ◎ ソースを見る Aマイナー4小節の後、トニックからBマイナーキーへ上が って同じ内容を繰り返し、Bマイナーのトニックから再びAマ イナーへ戻ります。この方法のありがたいところは、どんなキ ーへ転調しても、転調先でトニックへ解決すれば、そこから簡 単に元のキーへ戻れることでしょう。 さて、転調先の選び方ですが、これといった決まりがあるわ けはなく、どんなキーへも進入可能。いかにも「転調らしい」 転調感の強いは転調は、半音、M3rd上やオーギュメント上(+5th) への転調です。これはスケールの色彩の点で元調との差異があ まりにも大きいためですが、また一方で、両方のキーの間の共 通性を生かしたキーを選ぶのも有効。うまくすれば、2つのキ ーにわたってまったく同じメロディラインを保つ事もできます。 Cメジャーなら共通音の多いFメジャーやGメジャー(いずれ も近親調)が狙い目です。 ● C→Fでも同じメロ =非対応メニューです ◎ ソースを見る
脈絡なく転調
ブッ飛んだ方の突然転調ですが、書いた通り、これには理論 的な説明をつけることはできません。 よくあるパターンとしては、例えばツー・ファイブ→まった く関係のないキーへの進行、というのがあります。これは先読 みされがちな流れであるドミナントモーションの解決先に、予 想外の展開を置いて聞き手の予想を裏切る、という効果を狙っ たものと思われます。 ● サンプル =非対応メニューです ◎ ソースを見る これは2小節のユニット単位でm3rdずつどんどん上に転調し ていく例ですが、それぞれのキーの変わり目に次のキーを暗示 させる新調ドミナントを配せず、元のキーのセカンダリードミ ナントからぜんぜん関係のないキーに転調しています。 ● サンプル =非対応メニューです ◎ ソースを見る これもきっかけのない転調例ですが、ちょっと大袈裟すぎる パターンになっています。Cメジャーから飛びまくってCメジ ャーに戻って落ち着くのですが、その間、転調のタイミングを フレキシブルにして、なおかつそれぞれのキーでの進行に統一 的な規則性を持たせないことでキーをわかりにくくしています。 下手すると自分でもキーがわからなくなってアレンジの時に困 ったりするのでコメントを入れておくなりしてキチッと把握し ておかないとまずいでしょう。 (EOF)